医学生理学研究所は東京大学病院と共同で妊娠高血圧症候群の原因物質sFlt-1が増加する原因の一部を解明し、国際学術誌に論文発表するとともに、12月6日に県庁で記者発表を行いました。
論文:
Title: HIF-2α, but not HIF-1α, mediates hypoxia-induced up-regulation of Flt-1 gene expression in placental trophoblasts
Tadashi Sasagawa, Takeshi Nagamatsu, Kazuki Morita, Nobuko Mimura, Takayuki Iriyama, Tomoyuki Fujii, and Masabumi Shibuya
Scientific Reports, Nov. 26, 2018
妊娠高血圧症候群の原因物質sFlt-1が増加する原因の一部を解明
1, 妊娠高血圧症候群(以前の呼び方では妊娠中毒症)は、妊婦の約5%が発症する重要な病気で、重症の場合は母体や胎児の命にも影響を与える。
近年、胎盤の栄養層細胞からsFlt-1タンパク質が異常に産生され、母体血流中にも流れて、高血圧やタンパク尿を引き起こすことが次第に明らかになってきた。
2, sFlt-1の産生が増大する誘因としては、胎盤の酸素欠乏(低酸素)、活性酸素の誘導、炎症、などが報告されているが、詳細な分子機構については不明のままであった。
3, 上武大学・医学生理学研究所の笹川研究員、澁谷研究所長らは、東京大学病院(女性診療科・産科:藤井知行教授のグループ)と共同で研究を行い、胎盤栄養層細胞が低酸素環境においては転写因子HIF2aを利用してsFlt-1遺伝子発現を亢進させ、sFlt-1大量産生を導くことを明らかにした。論文は、本年11月26日に、国際学術誌 Scientific Reports に発表(筆頭著者:T. Sasagawa, 責任著者:M. Shibuya)。
4, 転写因子HIF2aはヒト腎臓がんや脳腫瘍の悪性化に関与することが最近明らかにされたことから、制がん剤としてHIF2a阻害薬の臨床試験が行われている段階である。現在、妊娠高血圧症候群に対する有効な治療薬はまだ開発されていないが、今回の共同研究の成果をもとに、将来、妊娠高血圧症候群の治療薬のひとつとして副作用のないHIF2a阻害薬が考えられる。その薬剤開発が期待される。
注:
flt-1遺伝子:sFlt-1を産生する遺伝子で、澁谷所長が東大医科学研究所教授の時代に、ヒトゲノムから発見して世界に報告したもの。血管新生や炎症、がん転移などに関与する。
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