1. 「骨形成因子4(BMP4)はがんの微小環境を制御することでがんの増殖を抑制する.」
がん治療のための血管新生阻害剤は、現在、血管内皮増殖因子VEGFシグナルに対する抗体(アバスチン)や低分子キナーゼ阻害剤が開発され、大腸がん、肺がん、乳がんなどに幅広く使用されています。しかしその効果は十分とは言えず、次世代の血管新生阻害薬が探究されています。東京医科歯科大学小児科の土田里香非常勤講師は、本学の澁谷正史医学生理学研究所長や東京大学先端研(LSBM)血管生物学講座の大澤毅特任助教らと共同で、BMP4が主に内因性血管抑制因子トロンボスポンジンの発現を介して腫瘍血管を抑制し、がんの増殖を遅らせること、すなわち、BMP4が新規の制がん剤として利用できることを見出して欧文原著論文を発表しました。
論文:Tsuchida R, Osawa T, Wang F, Nishii R, Das B, Tsuchida S, Muramatsu M, Takahashi T, Inoue T, Wada Y, Minami T, Yuasa Y, Shibuya M. BMP4/Thrombospondin-1 loop paracrinically inhibits tumor angiogenesis and suppresses the growth of solid tumors. Oncogene, 2013 in press.
2. 「がん細胞のもつ低酸素・低栄養ストレス抵抗性は新規制がん剤開発の標的となり得る.」
がん細胞は血管新生阻害剤による治療の際に低酸素・低栄養ストレスを受け、ヒストンメチル化酵素の発現誘導などを介してストレスに対する抵抗性を獲得し、増殖を続ける可能性が考えられます。このストレス下にがん細胞内で上昇するヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aの発現を人為的に抑えることで個体レベルのがん増殖を抑制できることを、東京大学先端研(LSBM)血管生物学講座の大澤毅特任助教は澁谷正史医学生理学研究所長や土田里香博士(東京医科歯科大学小児科)らと共同で示しました (Osawa et al. Cancer Res. 73:3019-28, 2013)。この点に関して大澤毅博士は澁谷正史医学生理学研究所長と共同で、欧文総説(mini-review)を発表しました。
論文:Osawa T, Shibuya M. Targeting cancer cells resistant to hypoxia and nutrient starvation to improve anti-angiogeneic therapy. (mini-review), Cell Cycle, 12:2519-20, 2013.
3. 「血管内皮増殖因子受容体VEGFR (Type-V RTK)のシグナル伝達に関する総説の発表.」
澁谷正史医学生理学研究所長は米国エール大学のSchlessinger教授からの依頼を受け、同教授が編集するチロシンキナーゼ型受容体の総説集に、“血管新生に必須の役割を果たすVEGFRのシグナル伝達” に関する欧文総説論文を発表しました。
論文:Shibuya M. VEGFR and Type-V RTK Activation and Signaling. RTK Book, Edited by Y. Schlessinger et al. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2013 Oct 1;5(10). doi:pii: a009092
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